分類
S字甕の分類
S字甕(S字状口縁台付甕)は0(ゼロ)類からA・B・C・D類、そして宇田型甕に大きく6つに分類している。
各類型はさらに複数の段階に区分でき、宇田型甕も大きく4つに区分する。
おおむね,0・A類が2世紀,B・C類が3世紀,D類が4世紀で,宇田型甕が5・6世紀前葉を中心として製作された。
●参考文献
赤塚次郎1990『廻間遺跡』愛知県埋蔵文化財センタ-調査報告書第10集(110頁~113頁)
早野浩二1996「S字甕0類をめぐって」『鍋と甕そのデザイン』第4回東海考古学フォーラム
原田 幹1996「S字甕の分布と地域型」『鍋と甕そのデザイン』第4回東海考古学フォーラム
赤塚次郎・早野浩二2001「松河戸・宇田様式の再論」『愛知県埋蔵文化財センター研究紀要』第2号
早野浩二2001「志賀公園遺跡における古墳時代中期の土器について」『志賀公園遺跡』愛知県埋蔵文化財センター調査報告書第90集
S字甕0類
S字甕0類(ゼロ類・雲出型甕)
廻間1式0・1段階から2段階までを中心にして出土する。
三重県(中勢地域)と濃尾平野低地部に分布が集中する。S字甕の誕生の謎を解き明かす唯一の土器でもある。
その特徴はまず基本的にS字甕特有の限定された「混和材」を使用する。口縁部がS字甕を特徴づける明瞭な3段構成を持たず,頸部から緩やかな曲線を保つ。精緻な刺突文を施す。口頸部の形は多様性が残る。(2世紀前葉から中頃)
*S字甕0類:体部上半には刺突文が見られ、内面にもハケメが施される。台部は器高が低く屈曲部の径も大きい。補充技法はすでに存在する。
(一宮市八王子遺跡出土 廻間I式0段階)SK73
三重県松阪市阿形遺跡出土の有段口縁台付甕(左)とS字甕ゼロ類(右)
左の有段口縁台付甕は引き締まった頸部をもち(伊勢地域の甕の特徴)、緩やかに有段する口頸部をもつ。体部から台部にかけても引き締まった形状を持ち、台部も高さがある。
右のS字甕0類は体部に刺突文を施し、頸部の径も大きく、全体に丸みを保ち、台部も低い。
実測図上ではわかりにくいが実際に観察すると、胎土の違い等から全く異なる土器であることがわかる。S字甕ゼロ類の誕生は、こうしたわずかな違いから出発する。
やはり実際の土器に触れてみてその感触を味わって欲しい。それが土器研究の第一歩だと信じている。
(阿形遺跡の実測図は福田哲也1992「阿形遺跡」『ヒタチ廃寺・打田遺跡・阿形遺跡』三重県埋蔵文化財調査報告書99-2から)
S字甕A類
S字甕A類
廻間I式3・4段階から廻間II式1段階までを中心にして出土する。成立はI式2段階の中にある。初期のA類古段階の資料はいぜんとして三重県(中勢地域)と濃尾平野低地部に分布が集中する。新段階になると分布が飛躍的に拡大し、「第1次拡散期」により全国的な分布を見る。
その特徴はまず基本的にS字甕特有の限定された「混和材」を使用する。刺突文はしだいに押引状となる。古段階は体部が長胴であり、体部上半には単斜・放射状ハケメ後ヨコハケ。新段階は体部がしだいに球形となり、外面調整の羽状ハケが確立する。(2世紀後半期を中心にして製作)
■S字甕A類新段階の典型的な資料。
体部羽状ハケが見事に施され,体部は長胴から球形に変化する。
第1次拡散期(東海系トレース)はこの段階のS字甕登場が,その開始を告げる
S字甕A類は古段階から中・新段階の3つに細分できる。
■S字甕A類古段階,刺突文が細かく丁寧に施される。
また単射方向のナナメハケが基本であり
未だ,羽状のハケに統一されていない。
■S字甕A類中段階,外面のハケは放射状になり,刺突文は押し引きが顕著になるも,細かく施される傾向が残る。
体部はこの段階まで長胴化が基本
■S字甕A類新段階,羽状ハケに統一される。
押し引き刺突文
体部は球体化を志向
S字甕B類
S字甕B類
廻間II式1段階から廻間III式1段階までを中心にして出土する。
成立はII式1段階の中にある。(B類は3世紀前半期を中心に製作)
S字甕特有の限定された「混和材」を使用する点が,
特にB類新段階以降に不鮮明になる。
刺突文は欠損。B類以降,台部内面端の折返しが顕在化
古段階は体部が球形で、引き締まった頸部をもつ。
中段階は体部のヨコハケが頸部から離脱して施される。
いわゆる肩の張りが見られるようになる。
■S字甕B類古段階(左)と中段階(右)
古段階はS字甕A類の球体化を継承し,口頸部が小さくまとまる傾向が見られる。
外面の刺突文はB類段階で欠損する。
S字甕B類新段階
■新段階
II式4段階から出現するが,主にIII式1段階を中心に多く認められる形態。
B類新段階は口縁部第2段が外反し、C類の特徴である頸部調整や肩の張りの強い形態が見られるが、
B類の最大の特徴である口縁端部内面の強い面取りは残存する。
体部最大径の位置が上位にあり、いわゆる肩の張りが強い形態となる。
奈良県纏向遺跡辻土坑4下層資料はこの段階のものが主体を占めるようである。
廻間I式後半期からII式前半期
S字甕A類とB類の系列図
S字甕C類
S字甕C類
廻間III式1段階から松河戸I式1段階までを中心にして出土する。
成立はIII式1段階の中にある。
口縁部は大きく外反し、口縁端部内面の面取は欠損、
さらに特徴的な頸部調整をもつ。
古段階は肩の張りが強いが、最大径の位置がしだいに体部中央付近に下降する。
新段階は体部の長胴化と器壁の厚さが増加する。(C類は3世紀後半段階を中心に製作)
C類古段階
口頸部と体部の屈曲部に独立した一条の沈線を施す。頸部調整が基本。
B類の特徴であった。口縁端部内面の面取りが消失する。
S字甕D類
S字甕D類
松河戸式様式中心にして出土する。
S字甕の特徴の一つであった薄甕の原則が崩れ、
体部のヨコハケは欠損する。
体部は長胴化し、口縁部の特徴的な複雑な屈曲はしだいに不鮮明になる。
3段階に細分できる。
(D類は4世紀を中心に製作される)
■S字甕D類の最古段階の資料
ヨコハケは欠損しているが、体部上半の湾曲が残存する。いわゆる肩の張りが残る。
■S字甕D類中段階
体部,卵形の長胴化が完成,器壁の厚さが急速に増加
■S字甕D類新段階
松河戸II式期を中心にして製作される
脱薄甕化
宇田型甕
宇田型甕
■宇田(うだ)型甕
松河戸II式期に成立し、5世紀を中心に製作され,
一部の地域では,6世紀前葉まで出土する。
特徴的な粗いハケメ、頸部調整の欠損
S字甕を特徴づけていた複雑な口縁の屈曲は消失する。
S字甕の遺伝子を継承する,新たな型式の誕生として評価する。
(5世紀から6世紀前葉)
宇田型甕は1~4類に区分できる。
左図は3類でもあたらしい段階のもの。
宇田型甕の口縁部はく字状であったものが、
しだいに立ち上がりが強くなり,最後には
ほぼ垂直に立ち上がるようになる。
宇田様式を代表する器